ルームフォレントでまさかの事件が発生
残業が続き、疲労が蓄積していく一方、唯一体を休めることができるのは、自室だけだった。
最近はイギリス人のマックも忙しいらしく、あまり会っていない。
僕の住むルームフォーレントは、大家が一階に暮らしている。
熱心なカトリック教徒らしく、イエスやマリアの肖像画が壁にかけられている。
しかし、唯一のオアシスである自室で、まさかの事件が起きた。
犯人はまさかの……
机の引き出しには僕のパスポートや現金といった貴重品が入っている。
そのため、僕はいつも鍵をかけているのだ。
先日僕が引き出しを開けて封筒に入っている生活費を抜こうとしたとき、ふと感じた違和感。
封筒に入っている現金と僕の考える金額が合わないのだ。
封筒に入っている現金は正確には覚えていない。
なので、「いつの間にか使ってしまっていたのか」と思ってそのときは深く考えなかった。
しかし、今回は疑念が確信に変わった。
僕がいつものように鍵を鍵穴に差し込むと、なかなか鍵がはまらないのだ。
おかしいと思い、鍵穴をみると、鍵穴がボロボロになっていた。
誰かがこじ開けようとしたのだ。
僕は慌てて引き出しを開けて、封筒の現金を確認した。
やはり、現金が少なくなっている。
日本円にして3万円ほどのベトナムドン紙幣が消えているのだ。
それ以外に紛失した様子はない。
僕はどうするかを考えた。
僕は毎日外出時に部屋に鍵をかけていて、合い鍵は大家しか持っていない。
部屋の鍵穴を見たところ、こじ開けられた痕跡はない。
つまり、大家の犯行の確率が高い。
僕は同じく18Aに住む日本人に相談してみた。
「おそらく大家じゃなくて、大家の子供か、その親戚じゃないか」
との意見が一番多かった。
大家には20歳の子供がいる。
家賃収入で生活できるし、大家も銀行員のエリートなので、そのすねをかじって、息子はニートだ。
息子はしょっちゅう柄の悪い友達を連れてきて、一階のリビングを占領している。
「絶対に大家に訴えてみるべきだ」
と18Aの住人は口をそろえて言った。
そして、僕は大家夫人にそれとなく相談してみると、彼女は驚いて首を振った。
「私はカトリック教徒よ。そんな悪いことはしないわ。それに、そんな泥棒を働いたら、ここの噂になっちゃうじゃない」
カトリック教徒というのは泥棒をしない理由にはならないと思うが、後者は確かにその通りだった。
この18Aという住宅エリアはご近所付き合いが非常に強く、噂は瞬く間に広がってしまう。
もしここの家の大家は泥棒一家ということが広まったら、この家によりつく人はいなくなってしまう。
しかし、勘違いで話しは片付けられない。
最低でも2度、僕は被害に合っているのだ。
そして、僕はこの家を出ていく決意をした。
人文大学の講義もすでに終わっているので、ここに根を張る理由もない。
また、ベトナムの日本人社会も僕にとっては窮屈だった。
さて、次はどこに住もうか……、そう考えたとき、真っ先に思いついたのは、やはりファングーラオだった。
僕の脳裏にチャムとリンの顔が浮かんだ。
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